【損害賠償】FC2にAVをアップした結果…

アダルトビデオ(AV)を動画サイトにアップしたところ、著作権侵害により損害賠償請求されたという裁判の判決が3月16日に東京地裁でありました。

もちろん私は当事者ではありませんので(笑)詳細はわかりませんが、判決文でおおよそのことはわかります。

では、興味のおもむくままに、判決の内容を確認していきましょう。

※判決文のPDFデータはこちら

※以下、基本的には著作権法の話ですが、一部アダルトな内容が含まれます。
 未成年の方やそのような話題を不快に思う方は、閲覧をお控え下さい。

原告はあのメーカー
本裁判の原告(訴えた側)は、AV製作会社の株式会社WILLです。

多くの方には聞き覚えがない名称の会社だと思いますが、株式会社CAから事業承継を受けた会社といえば、結構な数の方がなるほどと思うことでしょう。

著名なAV製作会社であるCAはアウトビジョングループの中核をなしていた企業で、このアウトビジョンはAV業界の一大勢力で、WILLやCAを知らなくても、「アウトビジョン」や「アウトビジョン系」という言葉なら聞いたことのある男性は多いでしょう。

アウトビジョン系のレーベルには「S1」「MOODYZ」「MUTEKI」などがあります。
ここまで説明すれば、知らないとは言わせません(笑)

ちなみに、このCAですが、あのDMMの源流であることは意外と知られていません。
今でこそIT企業の旗手として広く知られるDMMですが、もともとはアウトビジョン系のAVをデジタル配信するサービスがメインだったのです。
そして、さらに遡れば、CAは石川県金沢市のレンタルビデオ屋さんが出発点なのです。
1レンタル店から日本有数のIT企業にまで成長したわけですから、感嘆しかありません。

と、ついつい脱線話に力が入ってしまいました・・・
閑話休題。本裁判はもともとCAが訴えを起こしましたが、その事業がWILLに承継されたので、裁判もWILLが引き継いだというわけです。

被告は本人訴訟
一方の被告(訴えられた側)ですが、ネットで見られる判決文では名前が伏せられているので詳細は不明ですが、おそらく個人だと思います。
わかるのは「本人訴訟」であるということです。
「本人訴訟」とは、弁護士等の代理人を立てないで訴訟を行うことです。要するに、専門家の手を借りずに自分の力だけで裁判を戦うというのです。

この本人訴訟は、法曹関係者からは嫌われがちです。基本的には、法律や裁判手続等についての専門知識を持っていない人が当事者となるのですから、裁判官からしてみれば、何が言いたいのかわからなかったり、筋違いなことを主張したり、通常は不要な説明をしなければならない等、円滑な裁判運営が難しいのです。
また、法律知識の不足により、本来争点になる事項がスルーされる等、先例としての価値が乏しい判決となってしまうのが普通なのです。

相手側にとっては、素人が相手となるわけで、勝訴しやすくなるだけですからラッキーだと思うに違いありません。

被告AVをFC2にアップロードする
さて、問題となった被告の行為ですが、2014年3月31日に大手アダルト動画共有サイト「FC2アダルト」にAVをアップロードしました。

タイトルは伏せられていますが、「美」(現在は「痴女ヘブン」に改名)レーベルの「美しいOLの下品なガニ股SEX 里美ゆりあ」(以下、単に「本件AV」といいます)であることは、ちょっと調べればわかります。
もちろん無断でやったことですから、この時点で著作権のうちの公衆送信権の侵害となります※。
※裁判所はアップロード行為をもって、あっさりと公衆送信権侵害を認定していますが、著作権法上はかなり複雑な構成となっています。この点については、別の記事で説明したいと思います。

再生回数は8047回
アップロードされた2014年3月31日から同年6月5日までの再生回数は8047回だったということです。
2ヶ月強で8047回という再生回数が多いのか少ないのかはわかりませんが、本件AVの発売日が2010年ということを考えれば、なかなかの数であるような気もします。

それにしても、ここ数年で大きく状況が変わったとはいえ、再生回数何十万とかいう動画を作るYoutuberのスゴさがわかりますね。

賠償金〜大きな代償〜
さて、著作権(公衆送信権)の侵害が認定されましたので、損害賠償の額がいくらになったか気になるところですよね。

損害賠償というくらいですから、侵害品により自分の商品が売れなくなったことによる損害額となるのが普通です。
したがって、その額は、「侵害行為により減少した本件AVの販売数」✕「本件AV1本あたりの利益額」という式をベースに算出するのが筋です。

しかし、「侵害行為により減少した本件AVの販売数」を証明するのは非常に難しく、手間もかかります。
その労力や苦労によって権利者が報われないのでは、何のための著作権なんだかわかりませんので、著作権法は損害額を容易に算出できるようにして、著作権侵害を受けた著作権者を助けています。
その方式もいくつか用意されており、著作権者は状況によって選択することが可能です。
CA(WILL)は著作権法114条3項という条文を根拠に損害額を算定・請求しました。

せっかくなので、条文を見ておきましょう。

著作権法第114条(損害の額の推定等)
3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。

ちょっとわかりずらいのですが「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額」というのは、要するにライセンスした場合の金額ということです。この114条3項は、最低限の損害額といわれていますが、算出はかなり容易であることを考慮して、CA(WILL)はこの方式を選んだのかもしれません。

実際の計算式は次のものです。

278(円)✕ 8047(回)×0.38=850085(円) 

85万円。
安くない額ですよね。
1本のAVを2ヶ月ちょっと掲載して85万円です。被告がアフィリエイト等で収益があったとしても85万円はなかったでしょう。
軽い気持ちでアップしたのかもしれませんが、大きな代償となりました。

計算式から見えるもの
上記の計算式の中身を見てみましょう。

8047回というのは、先に見たとおり再生回数です。

278円ですが、これは判決文の言葉を借りれば「(本件AVは)原告のグループ会社が運営するウェブサイトにおいて有料でインターネット配信されていること、同サイトにおいてストリーミングで本件著作物を視聴する際の価格が300円(消費税込。税抜き価格は278円)であること」によります。
ここにいう「原告のグループ会社」というのは、DMMであることはいうまでもないでしょう。
確認したところ(笑)、たしかにDMMでは本件AVが300円(税込)でストリーミング視聴することができます。
ただし、これは7日間だけ視聴できる最も安いもので(無期限に視聴可能なものは画質によって590円のものと980円のものがあります)、ここでもCA(WILL)は容易に立証が可能な最低限の数字を採ったようです。

残る0.38という数字ですが、これも判決文から引くと「原告が第三者に著作物の配信(ストリーミング及びダウンロード)を許諾する場合の対価は、当該第三者の売上総額(消費税抜き)の38%であること」によります。
つまり、AVの有料ネット配信の際、制作会社のWILLの取り分は売上の38%というわけです。

私は業界の人間ではないので正確なことはわかりませんが、ライセンス料は標準でこの程度なのでしょう。
いろいろと参考になりますね(笑)

ところで、この計算式は、もともとCA(WILL)が損害額を請求するために提示したものですが、裁判所もそのまま認めています。

なにしろ被告は素人ですから対抗するのも難しいでしょう。判決文でも「被告は、…原告の請求額が不当であると主張するのみで、その具体的理由について主張せず、何らの証拠も提出しない」とされています。

こうして、この裁判では85万85円の損害賠償が認定されたのです。
被告は、さらに金利のようなものと訴訟費用も負担しなれればなりませんので、痛みはもう少し大きいものとなります。

被告は控訴することはもちろん可能ですが、明らかに法律知識が欠如している被告が控訴する可能性は低いでしょう。

違法アップロードのリスク
AV業界については、知的財産・著作権対策が不十分だと言われています。
おそらく膨大な量のAV作品が現在も違法に動画共有サイトにアップされています。

しかし「赤信号みんなで〜」という軽い気持ちで違法アップロードするのがいかに危険であるかは、この裁判でおわかり頂けたかと思います。

さらにいえば、これは民事裁判なのでこの程度で済んでいますが、著作権の侵害は刑事罰の適用もあり、最高で10年の懲役と1千万円の罰金が科されます
小銭稼ぎのつもりが人生を棒に振ったなんてことにならないように心しておきましょう。

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