著作権法違反国外犯処罰の問題点(備忘) 各論 帝国議会での議論

第24回帝国議会(明治41年=1908年)

帝国議会での議案の流れを掴んでいないが、時系列で追ってみる。
(用語の使い方等誤っているかも…)

貴族院
◇2月8日 本会議 法案提出
 ●松田正久司法大臣の趣旨説明
  <要旨>
  ・改正刑法は前年(明治40年)に制定・公布済
  ・公布後すぐに法律取調委員会を組織して施行に必要な事項を検討した成果が刑法施行法
  ・規定事項は多岐にわたり無秩序に見えるが、一言で言えば新刑法施行に必要な事項を網羅している
 ●議案の審査を付託すべき特別委員の選挙
提出時の刑法施行法27条
第27条 左ニ記載シタル罪ハ刑法第三条ノ例ニ従フ
 一 特許法ニ掲ケタル罪
 二 商標法ニ掲ケタル罪
 三 意匠法ニ掲ケタル罪
 四 著作権法ニ掲ケタル罪
 五 重要物産同業組合法ニ掲ケタル罪
 六 移民保護法ニ掲ケタル罪

◇2月18日 監獄法案外五件特別委員会(第一読会)
 ●小山溫政府委員(検事兼司法省監獄局長)から法案についての大まかな説明の後、法案審議
  →若干の修正をして可決
  (27条については議論なし)

◇2月21日 本会議
 ●監獄法案外五件特別委員会による修正案提出(27条は変更なし)
 ●第二読会・第三読会で修正なし
  →本案確定


【衆議院】
◇2月27日 本会議
 ●貴族院で修正された法案提出
 ●松田正久司法大臣より貴族院と同様の趣旨説明
 ●若干の質疑応答の後、議案の審査を付託すへき委員の選舉

◇2月29日 監獄法案外五件委員会第二回
 ●大体の質問なく特別委員会に付託することを決定

◇3月4日 監獄法案外四件委員会第三回(特別委員会)
 ※帝国議会会議録DBでは「外五件」とあるが、2月29日に1件可決されており、会議録では「外四件」とされている。
 ●各条の審議が行われるが、花井卓蔵委員(衆議院議員)の「第26条第27条は留保して置きたい。少しく研究したいと思います」という発言により、審議・議決は後日となった。

◇3月7日 監獄法案外四件委員会第六回(特別委員会)
 ●会議録より 花井卓蔵君「過日本員より、26条27条を宿題に供せられんことを望んで書きましたが、研究の結果、26条は当然此儘に致して置いて差支えないと思います。第27条中、第1号特許法に掲げられたる罪、第2号に掲げてございまする商標法に掲げたる罪、第3号の意匠法に掲げたる罪、此規定を削除すると云う意見を提出するのであります。第27条の規定は、性質上より云えば刑法第3条の延長である。刑法の一部を為するものである。故に此の如き特別法の罪を、刑法第3条の如き属人主義の原則を定めたる規定の下に、列記的に掲げられてある法制があるかと云うことを調査致して見ましたところが、私の取調べた刑法は、独逸、仏蘭西、伊太利、白耳義、和蘭、芬蘭、澳太利、諾威、露西亜(※順に、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、フィンランド、オーストリア、ノルウェー、ロシア)、此の十箇国の刑法でございますが(※実際には9カ国)、何れにもない。而して完全無欠に出来上って居る新刑法、但し死刑無期刑を存置せしめし点に於て欠点はございまするが、それを除くの外完全無欠の新刑法中に、第3条に何故に之を掲げなかったものであるか、施行法を以て3条を延長しなければならぬ位必要なものであったならば、刑法立案者が忘れるべき筈がないのである。又忘れないのである。それが漏れて居る所以は、畢竟するに刑法の眼中には、刑法典中に掲げられてある罪の規定のみを玆(※ここ)に現したものと見える。斯ういう主義である。決して特別法中の属人主義に属すべきものを、刑法典に掲げると云うことを忘れたのではありませぬ。それ故刑法にはないのであります。然るに施行法が此3つのものを列記致しまする所以、特別法中新刑法第3条の規定を掲げざるが故に欠点があるが故に補ったものと見えます。既に然らば本条の規定は不当ではありませぬ。併し特別法のことは、特別法に書くと云う事柄が正鵠を得たるものであろうと思いますのみならず、各国の立法例も左様になって居るのでありますからして、此処に此3つのものを掲げると云うことは少しく考慮を費やすべき点であるまいかと思う。然れども此の3つのものが、性質上刑法第3条の第1項に掲げらるべき罪の種類に属するものであって、主義として玆に掲げたと云う事柄は、無論の話しでございますからして、施行法が玆に掲げた云う事柄は、咎め立をすべき程のものでないのみならず、寧ろ主義の関係とするならば、掲げる事柄が確かに当然であるかも知れぬ、斯う云う感を私は懐いて居るのであります。然るに各国の刑法に此等の規定はなく、刑法立案者は特別法に譲ると云う趣意であったのでもございますからして、此場合に於きましては、工業所有権に関する特許法、商標法、意匠法に関する犯罪の如きものは姑(しばら)く削って置きまして更に考慮を費やすと云う事柄が必要であろうと思いますからして、削除の意見を出します。
阿部徳三郎君「花井君の削除の説に賛成であります。」
磯辺四郎君「私も削除説に賛成でございますが、併し此案は既に貴族院を通過したものではございますから、此削除すると云う事柄に付て政府のご意見を一応伺いたいし、即ち政府のご意見と云えば、司法大臣のご意見如何と云うことを一応承わりたいという考えであります。」
司法大臣(松田正久君)唯今27条の第1号、2号、3号を削除すると云う説に付て、政府は同意を致すや否やと云うのご質問でありますが、元と此27条に入れましたのは、御説の如く特別法より拾上げて此処に移したのでありますが、原案者として是にはそれ程深き意味を持ったものではありませぬ。故に今花井君の御説の如く、姑く之を削ったと云っても、それ程差支えると云う考は持ちませぬ。併し一旦貴族院の議を経て居りまするし、当局者として無論本案の成立を希望致します。又本案が成立を致さぬければ新刑法の実施も出来ぬ訳でございますから、削除の説に付て貴衆両院の意見が一致さえ致せば、政府としては強て原案を維持するの考は持たぬのであります。之を以て御答弁と致します。」
磯辺四郎君「それじゃ削除説に賛成であります。どうか御決議を願います。」
委員長(谷沢龍蔵君)「どうです、反対の御意見はありませぬか――花井君の説は全会一致と見て宜しうございますか。」
(「異議なし」と呼ぶ者あり)
委員長(谷沢龍蔵君)「全会一致と見て第1号乃至第3号は削除と決します。して、第4号乃至第6号は順次繰上げることに致します。」

◇3月9日 監獄法案外四件委員会第七回(特別委員会)
 ●会議録より
阿部徳三郎君「委員長が出席致して居りませぬから、私から特別委員会の経過并に結果を報告致します。特別委員会は都合六回程開きまして、先づ第一に刑法施行法(略)斯様に順次質問討議を尽したのであります。其中に付て此の刑法施行法案の第27条の中、第1号より第3号まで、之を削除致す方が宜かろうと云う花井君の動議が成立致しまして、委員会に於ては此部分を削除致し、第4号を順次繰上げて、1号2号3号と修正を致したのであります。其他は総て特別委員会に於きましては、満場一致を以て貴族院修正の部分は其通り、其他は原案の通り可決致した次第であります。右御報告致します。」
花井卓蔵君「阿部君に御尋致しますが、27条の1号乃至3号の削除になったのも満場一致と見て居りますが、其通りに相違ありませぬか。御報告が漏れたようですから伺います。」
阿部徳三郎君「其点も御尋の通り特別委員会に於きまして、満場一致であったのであります。」
宮古啓三郎君「今の27条の第1号、第2号、第3号を削除しました理由を伺いたい。其当時出て居りませぬから、成るべく詳しくお話を願います。」
花井卓蔵君「27条の1号、2号、3号を削除致しました理由の、御尋でありますから、私より御答致します。27条の規定は新刑法第3号の延長であります。即ち属人主義の規定に係るのであります。新刑法の主義と致しましては、27条中1号2号3号の如き、性質の犯罪は無論属人主義のものであると認めて居るのである。故に施行法の上の是等の規定を掲げましたるは、決して非難すべき点はないと存じます。然るに各国の刑法を調査致して見まするに、特許、商標、意匠に関する犯罪並に其法律の支配すべき主義の規定――属人主義にするか、属地主義にするかと云うことは、各々其特別なる法令に掲げられてあるように認めて居るのであります。それ故に特許法第45条、第47条、商標法第15条、第16条、第17条、意匠法第17条、第19条是等に規定せる所の犯罪を属人主義的に規定するのは、畢竟其特別法令の改正に待ちたいと云う趣意より致しまして、削除致すことになりましたのであります。極めて簡単明白なる理由の下に、此提議を致しまして、満場の容るるところとなった次第であります。
矢島浦太郎君「唯今の修正は政府が同意されましたか。」
阿部徳三郎君「政府に於ては、格別不同意はないのであります。」
宮古啓三郎君「政府委員に御尋致します。政府委員の方の此27条の1号2号3号を特別法でなしに、此所に置いた理由、并に今度の修正に対してどう云う御意見を持って居られるか、一応ご説明を得たい。」
政府委員(法学博士河村譲三郎君)原案の理由は、修正意見を御提出に相成りました、花井君より唯今御述べになりました通りであります。修正の御意見に付きましては、政府に於きましては此原案に格別の重きを置きて居りませぬ。併しながら貴族院をも通過致したことでありますから、固より此原案の通過を希望致す訳であります。けれども一面此新刑法の速に実施せらるることを最も希望しまするが故に、此の修正の御意見にして両院に於て同様の御意見でありまする以上は、政府に於きましても之に同意を致すことに吝なるところはないのであります。」
花井卓蔵君「26条と27条とに跨って、尋ねて置きますが、26条に列記せられてある罪、27条に列記せられてある罪、此罪は26条ならば刑法の2条の例に従うべき性質を有する部分のみに対する罪の規定、27条で申せば刑法第3条の例に従うべき其の主義に副べき部分の罪のみに対する規定であって其掲げられたる法律全体の所罰規定に及ぶべきものではないと心得て居りますが、其通りに相違ございませぬか。」 政府委員(豊島直通君)「26条27条に掲げてありまする、特別法中の犯罪で、其性質が外国で犯すことの出来ないような犯罪もございます。故に此処に挙げて居る犯罪は、国外で犯すことの出来るような犯罪のみを主として規定してあるのであります。
花井卓蔵君「それであるから、軍機保護法ならば軍機保護法全体、徴兵令ならば徴兵令全体、著作権法ならば著作権法全体の意味ではなくして、刑法2条3条の主義に属すべきもののみでしょう。」 政府委員(豊島直通君)「全く其通りでございます。」
委員長(磯辺四郎君)「26条27条は別に御異議はないようですから可決。・・・・」

◇3月10日本会議
 ●会議録より
花井卓蔵君「(略)当院に於て修正せられましたるものは、唯今磯辺委員長より御報告に相成りました通り、第27条にございまする第1号、2号、3号の削除でございます。削除の理由は刑法の第3条に掲げてございまする属人主義の規定の延長たる特別法の罪に係る問題でございます。特別法令にございまする犯罪を、普通刑法に上に列記して規定したる刑法は外国の立法例にないと云うのが一つの理由であります。而して又特別法令は特別法令の上に属人主義に致しましても、属地主義に致しましても、それに規定をすると云うことが、立法の肯綮を得たるものであると信ずるものであります。是が即ち第二の理由でございます。然れども刑事法本来の主義原則と致しましては、特許法に掲げたる罪、商標法に掲げたる罪、意匠法に掲げたる罪、即ち工業所有権に関する犯罪は、刑法第3条と同じ性質として属人主義の下に規定すべきは最も正当なる見解であるのでございます。それ故に27条に之を掲げましたるところで毫も欠点には相成らぬのでございます。然れども外国の立法例と同じように軌道を歩むも採決して不可とせずである。而して特別法令に於て此点を補うは立法の体裁として相当であろうと云う主意に於きまして、27条に於きましては、此3つのものに限りまして、刑法第3条の延長を認めないと云う所以の下に、本院に於ては削除するの説が容れられた次第であるのでございます。是が当院に於て修正せられましたる部分に係って居るのでございます。・・・」
●当会議にて刑法施行法の修正案が可決 ⇨ 3月28日公布

まとめと課題
・当然ではあるが、「刑法施行法義解」の辻の説明のとおりである。
・もともとは特許法・商標法・意匠法上の罪も刑法施行法27上に列挙されていたが、衆議院で削除された。
・その理由は、①外国の刑法に特別法の罪の主義(属地主義や属人主義)を規定した例が見られない、②そうした主義は特別法の中で規定するのが正当である、というもの。
・実質的には、花井卓蔵の考えとして修正されたものである。政治家・弁護士として著名な花井であるが、調査の必要あり。
・上記の理由があるにせよ、何故、工業所有権3法だけが削除されなければならないのか不可解極まりない。他の法律にしても条件は同じはずである。花井は著作権法以下3法を刑法施行法27条に残す理由については全く説明していない。
・中山が「不明」というのもこの点か?
・とにかく不可解という以上に、きな臭い。

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