著作権法違反国外犯処罰の問題点(備忘) 各論 刑法施行法27条に産業財産権法がない理由等

中山「著作権法〔第2版〕」666頁は「刑法施行法27条1項(ママ)では、産業財産権(工業所有権)についての国外犯の規定は置かれておらず、何ゆえ著作権についてのみこのような国外犯の規定が置かれたのか不明である」とする。

一応の答えは、辻「刑法施行法義解」78頁にある。

著作権切れのため、転載可(76〜78頁)。
(旧字やカナ書きは現代語に修正)
第27条 左に記載したる罪は刑法第3条の例に従ふ
 一 著作権法に掲けたる罪
 二 重要物産同業組合法に掲けたる罪
 三 移民保護法に掲けたる罪

(一〇三)本条其各号に記載したる罪に付て、新刑法第三条の例に従て、此等の罪を外国に於て犯したる帝国臣民に限りて其法律を適用せんとするに在り。新刑法第三条は学者の所謂属人主義の規定なり。属人主義とは刑法は絶対に臣民に対する支配力を有するものなることを根拠と為し、自国の刑法は到る所自国臣民に追求し、自国臣民の犯罪は自国に於て行わるると外国に於て行わるるとを問わず、自国の刑法を以て処断すべしと謂うものなり。此の主義を例外なく応用すれば、自国臣民が外国に於て旧刑法の違警罪の如き軽微あ(ママ)る罪を犯したる場合、即ち自ら進んで自国刑法を適用する程の必要なき場合にも、尚お自国刑法を適用せざるべからざることとなりて、甚だ不当なる結果を来たすべきが故に、我新刑法は前にも謂えるが如く例外として必要ある場合に限り、属人主義に依るものと為せり。

(一〇四)之れを以て本条各号に記載せられたる罪を見るに、
 (一)著作権法に掲げたる罪は各種の著作権(即ち文書、図画、彫刻、模型写真、其他文芸学術若は美術の範囲に属する著作物の著作者んい与えたる権利)を害するもの、
 <略>
にして何れも其犯罪の性質上之れを放任せば、或は処罰せらるることなくして終るべく為めに法の目的を達すること能わざるのみならず、今日世界交通の便開けて我国民にして外国に於て此等の罪を犯すこと容易なるものあるに於ては我刑法の効力を及ぼし以て国家社会の利益を保護し、刑法本来の主義を完うするに努めざるべからず。是れ本条の規定ある所以なり。

(一〇五)前条及び本条に於て「刑法第二(三)条の例に従う」とあるは、此等の犯罪を刑法中に入るると謂うに異ならず。換言すれば本法に規定して以て新刑法の遺漏を補うの意味と解せざるべからず。
 (註)本法草案には本条に尚お特許法に掲げたる罪、商標法に掲げたる罪、意匠法に掲げたる罪を記載したりき。是れ理論上正当の規定なれども、此等特別法に掲げたる罪を刑法の上に列記して規定したる立法例は、外国に於て之れなきのみならず、此等の法律は各自に属人主義の規定を為すを以て、立法の肯綮を得たるものなりと謂う理由に因りて衆議院の削除するところとなりたり。


ポイント
1.刑法施行法27条各号に挙げられた罪は、①放任すれば(外国では)処罰されない、②外国に行けば容易に行うことができるものである。

2.そうすることで「国家社会の利益を保護できる」。

3.法案提出時には特許法・商標法・意匠法上の罪も刑法施行法27条に列挙されていた。

4.3は理論上は正しいが、①外国に同様の立法例がない、②特許法等の各法に属人主義の規定を設ければよい、ことから衆議院で削除された。

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