看過される渉外問題
一連のサイト・ブロッキング問題を巡っては、憲法21条2項後段の通信の秘密との関わりで論説されることが多い。しかし、それと同じくらい議論されるべき渉外問題についは、ほとんど話題に上がらない。
「漫画村」等の海賊版サイトの実情に精通しているわけではないが、こういったサイトの運営には何らかの形で海外の人・物・事が関わっていると考えられる。
例えば、アップロードされるのが海外のサーバーであったり、スキャンやアップロードが海外で行われたりしていると考えるのが自然である。
海賊版サイトの運営者が容易に足がつくような方法は採らないだろう。だから、日本国内で全てを完結させるとは考えにくいのである。
海外の人や事物が関係してくると、法律問題は格段に厄介になる。
日本国内で完結している事案では、基本的には日本の法律だけを考慮すれば済むのだが、渉外的な事案では、考慮しなければならないことが遥かに増えるからである。
以下で、問題のフレームワークを述べるが、このフレームワークはインターネット上のコンテンツについて考える際には常に念頭に置いておくべきものであろう。
これまで、著作権の渉外事件は日本ではそれほど多くなかったが、日本の文化が世界で受け入れられるようになり、インターネットで世界中の情報が入手できる現在、問題となる事案が増えつつある。
(なお、以下の内容は民事的な問題を述べるものであり、刑法や刑事罰についてはまた別の考慮が必要となる。)
1.準拠法
渉外事件では、ある事案について、どの国や地域の法律を適用するかが問題となる(渉外事件において適用される法を準拠法という。)。例えば、日本人が日本語で書いたコミックを、フランスに住むイタリア人が、ロシアのサーバーに無断でアップロードして、多くの日本人にダウンロードされた場合、どこの国の法律が適用されるか準拠法の問題となるのである。
著作権の法制は各国により異なるため、準拠法の問題は極めて重要となる。
日本では「法の適用に関する通則法」が準拠法を定めるが、わずか43条の短い法律であり、現実に起こる複雑な事案では、条文の解釈が重要となる。
また、著作権の事案では、関連する条約の規定も考慮せねばならず、重層的な問題となる。
2.国際裁判管轄
準拠法の問題と似て非なるものに、国際裁判管轄の問題がある。これは、どこの国の裁判所に訴えが提起されるべきかという問題である。
準拠法が日本の法律であるとしても、必ずしも日本の裁判所で裁判を行わなければならないわけではなく、他国の裁判所で日本の法律に基づいて裁判されることもあるのである。
反対に、日本の裁判所が他国の法律に基づいて裁判を行うこともある。
複数の国を跨ぐ事案になると、この国際裁判管轄も一筋縄でいかない厄介な問題となる。
3.手続・執行・保全
裁判と関連して、訴訟手続や執行、保全が問題となる。著作権の渉外事件でいえば、特に執行が問題となるだろう。
例えば、被告の財産がすべて他国にある場合に、日本の著作権法に基づいて日本の裁判所によって損害賠償請求が認められたして、被告が判決に従わないときに、どうなるか(どうするか)問題となるのである。
これは解釈や学説上の問題というよりも、実務上の障害となりやすい。
4.立法
1から3までは司法に関する問題点だが、立法についても問題となろう。すなわち、日本の法律でどの範囲まで渉外事件について規定できるかという問題である。
現代においては、海外の事物をも想定した立法を図らなければ、実効性に乏しい法律になってしまう。
しかし、他国の主権を侵害したり、条約に違反する立法は許容されないため、どのような立法が可能であるかという点は大きな課題となるだろう。
例えば、著作権法113条5項では還流レコードの規制について規定されるが、対象となる客体が、国外で適法に頒布されたCD等であるが、対象となる行為は国内におけるものに限られる。
今後の議論に一言
初めに書いたように、海賊版サイトでは何かしら渉外的な要素があると考えられる。そうであるならば、上記のような制約が存在するため、日本国内で完結している事案にはない問題が生じることになる。
サイト・ブロッキング問題では、政府や出版社等のこれまでの無策を責める論説が散見される。
それは否定しないが、前提として、上記のような渉外的な要素の考慮に欠けているように思われる。
渉外事件となれば、権利者側は国内案件では存在しない何重もの壁に突き当たることが今後の議論の中で顧慮されなければなるまい。
とはいえ、何らの立法的手続を経ずにサイト・ブロッキングを「無理強い」した政府の行為は非難されて然るべきである。
海賊版サイト対策の最適解は未知数であり、世界各国で模索されている。
その中で、サイトブロッキングを実施している国も少なくなく、それらの国の裁判例や立法例とその効果を参考にした上で、日本でも立法的に解決されなければならない問題である。
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