属地主義・属人主義
刑法1条1項は「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する」と規定しており、犯罪地を基準に刑罰が適用される「属地主義」が原則としている。しかし、これにはいくつかの例外があり、その一つに「属人主義」がある。
具体的には刑法3条の「この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する」という規定であり、いわゆる「国外犯」がこれに当たる(内乱や外患、通貨偽造、公文書偽造といった日本の国家法益・社会法益を侵害する重大な犯罪については、日本国民のみならず、すべての者が国外犯となる属人主義が採られている(刑法2条)。)。
刑法3条の対象となるのは、放火、私文書偽造、強制わいせつ、重婚、殺人、傷害などであり(同条各号)、「重要な社会的法益または個人的法益に対するもの」(川端博『刑法総論講義〔第3版〕』(成文堂,2013年)75頁)、「比較的重い犯罪」(高橋則夫『刑法総論〔第3版〕』(成文堂,2016年)45頁・松原芳博『刑法総論〔第2版〕』(日本評論社,2017年)499頁)、「比較的重要な社会的・個人的法益に対する犯罪」(大野真義=森本益之=加藤久雄=本田稔=神馬幸一『刑法総論』(世界思想社,2011年)59頁)が列挙されている等と説明される。
刑法3条各号で列挙されているのは、刑法自体に規定される罪であるが、それ以外の罪でも国外犯に適用があるものがある。
例えば、不正競争防止法21条8項では「第2項第7号(第18条第1項に係る部分に限る。)の罪は、刑法第3条の例に従う」と規定しており、外国公務員贈賄罪も国外犯の適用があることがわかる。
他にも、臓器売買罪(臓器の移植に関する法律11条1項、20条)等が同様の取扱いとなっている。
これらはいずれも、罰則が規定される同じ法の中で「刑法第3条の例に従う」と規定されているため、国外犯にも適用があることが容易に把握できる。
盲点となる著作権法違反の国外犯
しかし、実は、それら以外にも国外犯に適用される罪がある。それが著作権法上の罪である。
刑法や著作権法にその旨の規定がないことは上述の内容から予想できると思うが、では、どこにそのような規定があるのだろうか。
答えは、刑法施行法27条である。
同条柱書に「左ニ記載シタル罪ハ刑法第三条ノ例ニ従フ」とされ、その1号に「著作権法ニ掲ケタル罪」とあるのである。
刑法施行法27条で規定される著作権法以外の罪は「移民保護法ニ掲ケタル罪」だけである(同条3号)。
しかし、移民保護法は昭和57年に廃止されており、この3号は空文化している。
また、従前は刑法施行法27条2号に「重要物産同業組合法ニ掲ケタル罪」が規定されていたが、大正5年に重要物産同業組合法20条の4に独自に規定が置かれたことに伴って、削除された。
したがって、現在、刑法施行法27条の適用があるのは「著作権法ニ掲ケタル罪」だけということになる。
このように刑法と著作権法の規定の間隙にあるため、著作権法上の罪が国外における行為にも及ぶことは、かなり細かく学習していなければ気づかない。
刑法ではコンメンタールのレベルの書籍でなければ、この規定に言及されていない。
そもそも刑法学者でさえ刑法施行法の条文を見ることは今日ではほとんどないだろう。
一方、著作権法では体系書レベルの書籍であれば、これに言及しているのが普通であるが、著作権法学者が刑法に関心を有していることは稀であり、極めて簡潔な説明に留まっているものがほとんどである。
謎だらけの刑法施行法27条
このように法の網の中の盲点になっている著作権法犯罪の国外犯であるが、実は謎に満ちている。ところが、その謎に正面から取り組んだ人は今までにいないようなのである。
というわけで、次回からこの謎の解明に挑戦していきたい。
手探りの挑戦になるため、どこまで追究できるが自信はないが、かなり面白い問題であることは確信している。
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