第2回「『化粧品』とは?」では、法律では「化粧品」がどのように定義されているかを学びます。
普段の生活では、あまり意識しなくても大まかなイメージを持っていれば困ることもないので、真剣に考えたことはないでしょう。
しかし、法律には「化粧品」とは何かしっかりと規定されています。
ちなみに、広辞苑〔第7版〕では、
「化粧に用いる品。クリーム・白粉(おしろい)・口紅の類。」
と説明されています。
これは、私たちのイメージとかなり近いものだと思います。
では、法律ではどのようになっているか見ていきましょう。
「化粧品」の定義
「化粧品」については、薬機法2条3項に定義されています。多くの法律では、そこで使われる重要な用語を定義して、あいまいさができるかぎり少なくなるようにされています。
薬機法では、「化粧品」の他に「医薬品」「医療機器」「薬局」などが定義されています。
「化粧品」という言葉は、薬機法以外の法律にも登場しますが、定義がされているのは薬機法だけで、他のほとんどの法律では、薬機法の定義が引用されています。
実際の薬機法2条3項の規定を見てみます。
この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌(ぼう)を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第1項第2号又は第3号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部外品を除く。
化粧品とは、
① 人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌(ぼう)を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つためのもの(使用目的)
② 身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されるもの(使用方法)
③ 人体に対する作用が緩和なもの(作用)
④ これらの使用目的のほかに、第1項第2号又は第3号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物や医薬部外品でないこと(例外)
順にくわしく見ていきましょう。
法上の「化粧品」
①使用目的第一に、化粧品は「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌(ぼう)を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つためのもの」です。
石鹸や歯磨き粉などは、あまり「化粧品」というイメージがないという方も多いと思いますが、これらは「人の身体を清潔にし、美化」するものですで、化粧品に該当する可能性があります。
なお「皮膚若しくは毛髪を健やかに保つためのもの」が規定されているのは、クリーム類、化粧水、ヘアトニック等の基礎化粧品が含まれることを明確にするためです※。
※逐条(一)24頁
②使用方法
第二に、化粧品は「身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されるもの」です。
「塗擦」は日常では使われない言葉ですが「ぬってすりこむ」という意味です。化粧水やボディクリームを思い浮かべるとよいでしょう。
「これらに類似する方法」としては、塗布する方法(マニュキュア等)や含漱(がんそう。口をすすぐことという意味です。)する方法(液体歯みがき等)があります※。
ピアスやウィッグ、リング等は、①使用目的の魅力を増したり、容貌を変えるものに該当しますが、使用方法の点から化粧品には該当しないこととなります。また、コラーゲン入りドリンクやヒアルロン酸注射も、使用方法から化粧品には該当しません。
※逐条(一)23頁、ベイシス33頁
③作用
第三に、化粧品は「人体に対する作用が緩和なもの」でなければなりません。
日常用語としての「緩和」は、「渋滞の緩和」「ルールを緩和する」というように、名詞や動詞として使われる言葉ですが、医学や薬学の世界では形容動詞として使われることも珍しくないようでです。
意味は、名詞や動詞と同じように「程度が弱い」と考えればよいでしょう。
ですから、①と②に該当しても、激しい作用があるものは化粧品には該当しないことになります。
④例外
①〜③に該当しても、例外として化粧品に該当しないものがありますが、これは次回見ることにしましょう。
参考文献
●薬事法規研究会編「逐条解説 医薬品医療機器法」ぎょうせい,2016年(文中「逐条(一)〜(三)」と略)●新薬事法研究会編「ベイシス薬機法」薬事日報社,2015年(文中「ベイシス」と略)
●翁健、鰍澤照夫、木村豊彦・山川洋平著「医薬品医療機器等法・薬剤師法・毒劇法解説」薬事日報社,2015年(文中「解説」と略)
●ドーモ編「カラー図解 よくわかる薬機法 全体編〔第4版〕」薬事日報社,2016年(文中「図解」と略)
法律では、「その他」という言葉がよく使われます。実在したり想定されたりする事物のすべてを具体的に法律に規定するのは現実的に不可能ですので、「その他」という言葉で適用範囲を広げておくのです。
薬機法2条3項でも「身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法」と規定されていますが、塗擦・散布の「その他」として、塗布や含漱があるのは、上で勉強した通りです。
法律を読む上で注意しなければならないのは、「その他」と「その他の」で違いがあることです。
普段の生活で使う分には「その他」と「その他の」を使い分けている人はほとんどいないでしょうが、法律用語としては、次のような用法の違いがあります。
その他・・・・その前に挙げられている言葉が、後の言葉と同列である場合
その他の・・・その前に挙げられている言葉が、後の言葉の一部である場合
単純化すれば、その言葉(「その他」「その他の」)の前の言葉が後の言葉に含まれるかどうかの違いです。
薬機法2条3項で使われているのは「その他」ですから、前の言葉は後の言葉に含まれないということになります。つまり「塗擦」「散布」は「その他これらに類似する方法」に含まれず、「塗擦」や「散布」の他に「塗布」や「含漱」があるよ、ということになるわけです。
次に、薬機法1条の2の条文を見てみましょう。
第1条の2(国の責務)
国は、この法律の目的を達成するため、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保、これらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止その他の必要な施策を策定し、及び実施しなければならない。
「その他の」の前の「医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保」と「これらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止」は、「その他の」の後の「必要な施策」に含まれているということになります。
「必要な施策」の中には、「医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保」や「これらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止」があるよ、ということです。
0 件のコメント :
コメントを投稿