文化芸術基本法と著作権

かなり地味な存在なのですが「文化芸術基本法」という法律があります。
そこに著作権に関する規定がありますので、紹介しておきます。

文化芸術振興基本法から文化芸術基本法へ
文化芸術基本法は、従来「文化芸術振興基本法」という名称でしたが、昨年(2017年)の通常国会に大幅な改正案が衆法として提出され、両院の可決を経て、同年6月23日に公布・施行されたものです。

改正前(文化芸術振興基本法)と改正後(文化芸術基本法)の20条を比べてみましょう。
改正前

著作権等の保護及び利用 第二十条 国は、文化芸術の振興の基盤をなす著作者の権利及びこれに隣接する権利について、これらに関する国際的動向を踏まえつつ、これらの保護及び公正な利用を図るため、これらに関し、制度の整備、調査研究、普及啓発その他の必要な施策を講ずるものとする。

改正後

著作権等の保護及び利用 第二十条 国は、文化芸術の振興の基盤をなす著作者の権利及びこれに隣接する権利(以下この条において「著作権等」という。)について、著作権等に関する内外の動向を踏まえつつ、著作権等の保護及び公正な利用を図るため、著作権等に関する制度及び著作物の適正な流通を確保するための環境の整備、著作権等の侵害に係る対策の推進、著作権等に関する調査研究及び普及啓発その他の必要な施策を講ずるものとする。

本法は「基本法」ですので、政策や行政の指針を示すことを主な目的としているため、この改正によって著作権や隣接権等の内容が変わったわけではありません。

改正前は、著作権等に関して国が行うべきこととして「制度の整備、調査研究、普及啓発その他の必要な施策を講ずる」と漠然と規定されていたものが、新法では「著作権等に関する制度及び著作物の適正な流通を確保するための環境の整備、著作権等の侵害に係る対策の推進、著作権等に関する調査研究及び普及啓発その他の必要な施策を講ずる」となり、(1)著作物の適正な流通を確保するための環境の整備、(2)著作権等の侵害に係る対策の推進という具体的な施策例が追加されました。


文化庁の憂鬱
さて、改正の前後を問わず、20条の文言はユーザーより権利者寄りの内容だと感じられるのではないでしょうか。
この法律の淵源を見てみると、改正前の文化芸術振興基本法も昨年の改正法も、文化芸術振興議員連盟によって取りまとめられたものであることがわかります。この議員連盟は権利団体・関係者団体が集まった文化芸術振興基本法推進フォーラムに近しい存在で、基本的には厳しい(つまり、権利者に利益となるような)著作権制度を指向しています。
だから、権利者寄りの文言となるのは当然といえば当然です。


著作権の所轄官庁である文化庁は、昔から外部との交渉に弱いと言われており、百戦錬磨の経済界からの働きかけに苦慮しているようです。殊に著作権法に関しては、ユーザー側の意見は一本化されることが困難であるのに対して、権利者側は意見の集約を行いやすく、政治家へのロビー活動にも積極的であり、文化庁もそうした働きかけに屈しがちなのです。
現在の著作権法には、権利者側の圧力に押されて、文化庁の意に即さず、同意形成もままならぬ状態で導入された規定が散在していると思われます。

様々な意見はあるでしょうが、現在の著作権法はユーザーへの配慮を若干欠いている、アンバランスなものになっていると思います。
ここで取り上げた文化芸術基本法の中身はともかくとして、文化庁があまりにも素直で従順であれば、著作権法はますます権利者側に傾いた歪な法律になっていってしまいます。
文化庁にはいくらかでも骨のあるところを見せて欲しいものです。


関連書籍
●権利者団体等に翻弄されながら改正法案が作られていく様を憂慮するものとして、山田奨治『日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか』(人文書院,2016年)。

●著作権法において、権利者側が政策過程に積極的に加わるのに対し、ユーザーの利益は反映されにくいという「少数者バイアス」が存在することを指摘するものとして、田村善之「法教育と著作権法ー政策形成過程のバイアス矯正としての放任との相剋」ジュリスト1404号(2010年)37〜39頁。

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