【仰天】リーチサイトの「リーチ」は”reach"ではなかった!

法学教室(有斐閣)449号(2018年2月号)の奥邨弘司「インターネットと著作権」を読んでいると、驚くべきことが書いてありました。

それはリーチサイトの問題点について記載されている箇所なのですが、「そもそもリーチサイトって何?」という方のために、簡単に説明しておきます。
リーチサイトとは?
公開されている国の資料の中に、次のように記載されています。

インターネット上の著作権侵害行為を大きく拡大させる侵害事例として、侵害コンテンツそのものは掲載していないものの、侵害コンテンツを掲載したサイト或いはサイトに蔵置されたコンテンツへのリンクを集めて誘導するリーチサイト(まとめサイトとも言う)の事例が挙げられる。世界中の様々なサーバに蔵置されている著作権侵害コンテンツへのアクセスを容易にするため、それらへのリンクをまとめて掲載するリーチサイトが数多く存在し、著作権侵害コンテンツの閲覧やダウンロードを助長している。
―――知的財産戦略本部・インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するWG「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策について(報告)」(2010年)25頁

要するに、コンテンツの海賊版に簡単にアクセスできるようにリンクが集められたサイトが「リーチサイト」です。

ちょっちょっと検索すれば、コミックやアニメ、ドラマ、映画、雑誌、ゲームプログラム等のリーチサイトを簡単に見つけることができ、その蔓延ぶりが伺えます。

昨年(2017年)の10月31日には、コミックの最大規模のリーチサイトであった「はるか夢の址」の運営者ら6人が逮捕され、それによって、幸か不幸かリーチサイトというものの存在が少なからず世間に認知されました。(ITmedia「海賊版リーチサイト「はるか夢の址」運営者ら9人逮捕」等の多くのメディアで報道)

また、折しも去る(2018年)3月19日に菅義偉官房長官が記者会見において、海賊版サイト(リーチサイト)について、サイトブロッキングを含めてあらゆる方策を検討している旨の発言をしたことが報じられました※。(ITmedia「政府、漫画海賊版サイト「早急に対策」ブロッキングも検討」)
※ただし、菅長官の実際の会見では「リーチサイト」という言葉は使われておらず、「インターネット上の海賊版対策を強化するために、サイトブロッキングを含めて現在あらゆる方策の可能性を検討している」と述べているだけですので、リーチサイトについての言及とは言い切れません。(首相官邸  動画3:14〜)

「リーチ」は"reach"じゃない!?
リーチサイトのイメージはつかめて頂けかと思います。
そこで、この「リーチサイト」という言葉についてなのですが、「リーチ」って普通に考えて英単語の"reach"だと思いませんか?

海賊版に「到達する」リンクを集めたサイトで”reach site"、海賊版に「向かう」サイトで”reach site"。そう考えるのが普通の感性だと思います。
あるいは、もうちょっとひねって、あと1クリックで海賊版にたどり着けるサイトなので、麻雀・スロット・ビンゴなどのノリで”reach site"と思いくかもしれません。

しかし、冒頭の「インターネットと著作権」(41頁)には、こう書いてあります。

ここでいうリーチとはreachではなく、leechであり・・・

えぇーーー!!
そうなんですか?
ビックリです!

でも、そもそも"leech"ってなんやねん?
となりますよね?

「リーチサイト」とは・・・
では、"leech"とは何かといえば・・・
「インターネットと著作権」は、先の引用に続けて、こう述べています。

著作物を違法公開するサイトに蛭のように寄生するサイトぐらいの意味であろう

そう、"leech"は「蛭(ヒル)」という意味なのです!

私の英語力では、思い浮かぶはずもない単語です・・・。
だいたい日本語の「蛭」ですら、ほとんど使ったことのない言葉なんですから。


それはともかく、"leech site"を「海賊版サイトに規制するサイト」という意味で捉えているのは少し疑問です。

Wikipedia(英語版)の「leech(computing)」の項を見てみると、「"leech"とは、たいてい故意に、何の引き換えも提供することなく、他人の情報や成果等を手にする者」といった感じで記しています。

そして、駐車場に車をとめて無断でカフェの無料Wi-Fiに接続して大容量のデータをダウンロードする"Wi-Fi leech"や、自分では戦闘に加わらずに他のプレイヤーに戦闘させておいて経験値だけを稼ぐゲームにおける"leech"を紹介しています。

この"leech"の用法は、蛭が動物の血を吸った上で、気づかれずに行方をくらますことに由来するとのことです。

こうした用法の"leech"を、日本でも誰かが使い始めて、そのうちに「リーチサイト」という言葉が生まれたんじゃないかなと思うわけです。
寄生サイト? 吸血サイト?
このような由来を考えると、"leech site"は「吸血サイト」というような意味に捉えるのが自然だと思います。

「海賊版のリンクを集めてるサイト ⇨ 海賊版に寄生しているサイト ⇨ 寄生といえば蛭 ⇨ 蛭は英語で"leech" ⇨ リーチサイト」という発想は、日本人ぽくないと思うんですよね・・・

とはいえ、海外の"leech"の用法と「リーチサイト」の態様とはだいぶ異なっており、「吸血サイト」の解釈にも問題があります。
奥邨氏は、海外においては日本と同様の意味では"leech site"という語が使用されておらず和製英語の類いかもしれない、と指摘していますので、おそらく氏は上記の"leech"の用法を知った上で、「リーチサイト」にはしっくりこないため、「寄生」の意味をあてたのだと思います。

<2019年3月26日追記>
池村聡著「はじめての著作権法(日経文庫)」(日本経済新聞出版社,2018年)107頁以下に「リーチサイト」についての記載があります。
その中で、著者は「リーチサイトは権利者の経済的利益を吸うといったイメージでしょうか」と、その由来を推測しており、吸血説(?)を採っています。

蛭は誰だ?
「寄生サイト」「吸血サイト」のどちらが正しいかは判然としませんが、「リーチサイト」が「蛭サイト("leech site")」ということは、おわかり頂けかと思います。

ここまで書いてきて、考えてしまうのは、リーチサイトのユーザーこそ寄生や吸血を行う「蛭」なのかも、ということです。クリエーターの努力と才能の産物を掠め取っていくわけですから。

とにもかくにも、クリエーターはそれに相応しい対価を得ることによって、次の作品へとつながっていくわけですから、リーチサイト・海賊版サイトは絶対に利用しないようにしましょうね。

<2019年3月26日追記> 池村聡著「はじめての著作権法(日経文庫)」(日本経済新聞出版社,2018年)107頁以下に「リーチサイト」についての記載があります。
その中で、著者は「リーチサイトは権利者の経済的利益を吸うといったイメージでしょうか」と、その由来を推測しており、吸血説(?)を採っています。

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