新たな著作権法
昭和45年に全面改正された著作権法は、条文数を見ると旧著作権法の倍以上となっており、大幅にボリュームアップした。これは、旧著作権法が詳細な規定はあまり置かれず、どちらかとういと曖昧・漠然としているのに対して、新著作権法は細部に入り込んだ周到な法となっているというのが大きな原因となっている。
旧著作権法では条約に違反しているおそれが強かったり、条約の規定に対応できていない部分があるなどの不備があったが、新著作権法ではこの問題は全てクリアされたのは言うまでもない。
新しい著作権法の構成は次のとおりである(制定当時の目次)。
第一章 総則
第一節 通則(第一条―第五条)
第二節 適用範囲(第六条―第九条)
第二章 著作者の権利
第一節 著作物(第十条―第十三条)
第二節 著作者(第十四条―第十六条)
第三節 権利の内容
第一款 総則(第十七条)
第二款 著作者人格権(第十八条―第二十条)
第三款 著作権に含まれる権利の種類(第二十一条―第二十八条)
第四款 映画の著作物の著作権の帰属(第二十九条)
第五款 著作権の制限(第三十条―第五十条)
第四節 保護期間(第五十一条―第五十八条)
第五節 著作者人格権の一身専属性等(第五十九条・第六十条)
第六節 著作権の譲渡及び消滅(第六十一条・第六十二条)
第七節 権利の行使(第六十三条―第六十六条)
第八節 裁定による著作物の利用(第六十七条―第七十条)
第九節 補償金(第七十一条―第七十四条)
第十節 登録(第七十五条―第七十八条)
第三章 出版権(第七十九条―第八十八条)
第四章 著作隣接権
第一節 総則(第八十九条・第九十条)
第二節 実演家の権利(第九十一条―第九十五条)
第三節 レコード製作者の権利(第九十六条・第九十七条)
第四節 放送事業者の権利(第九十八条―第百条)
第五節 保護期間(第百一条)
第六節 権利の制限、譲渡及び行使等並びに登録(第百二条―第百四条)
第五章 紛争処理(第百五条―第百十一条)
第六章 権利侵害(第百十二条―第百十八条)
第七章 罰則(第百十九条―第百二十四条)
附則
もちろん、目次だけを見て内容面の比較はできないが、少なくとも体系的な整備が指向された法であることは、目次から十分に読み取れるだろう。
ようやく時代に追いついた感のある著作権法だが、旧著作権法と同じように、時代を経るごとに社会の実情から乖離が目につくようになる。
旧著作権法では、小規模な改正でさえ稀にしか行われなかったことは前述のとおりであるが、新しい著作権法では、改正を繰り返すことで、社会との乖離をなんとか縮めようという努力が続けられる。
斉藤博名誉教授は言う。
必然的に著作権法の改正は続く。しかも、交響曲が楽章ごとにそのテンポを変えるように、著作権法制も、技術の開発に合わせて、節目ごとに緩急を変えて変容を続けてきた。(略)昭和45年から現在に至る時代区分についてもその特徴が顕著である。昭和45年から10年余りは著作権法の全面改正直後とあって、これをモデラートの楽章にたとえれば、その後の時代はテンポの早い激動の時代、プレストの時代と評することができよう。ほとんど毎年のように、著作権法を改正する案が国会に提出されるという、まさに小刻み改正の時代に入っているといえよう。
文化庁監修/著作権法百年史編集委員会編著「著作権法百年史」(著作権情報センター,2000年)361頁
詩的な表現は心地よいが、そこで「激動」とされている時代も著作権法のが現在置かれている状況を考えれば、まだ生やさしいものであり、斉藤名誉教授が同じテーマを今日扱ったとしたら、これほど軽やかな筆致にならないのではと想像してしまう。
平成12年(2000年)前後の諸改正は、場当たり的であるかもしれないが、どのような改正が必要であるかは、まずまず明確であった。
だから、社会情勢の変化から一歩遅れを取ったとしても、適当な改正は行われ、時代が要求する著作権法の姿は辛うじて保たれてきた。
しかし、その後、著作権法にとって絶望の時代が来る。
法に不備があることは明らかでもあるにもかかわらず、どのような改正を行えばいいのかということすらわからない、というのが著作権法の置かれた現状なのである。
中山名誉教授は、主著の冒頭部分で、次のように述べる。
現在の著作権法が置かれている状況は混沌としており、当分の間混迷が続き、まさに著作権法にとっての憂鬱の時代である。
「著作権法〔第2版〕」(有斐閣,2014)11〜12頁
この「著作権法の憂鬱」の主因となっているのが、平成12年(2000年)前後に急速に普及するインターネットなのである。
6.現行著作権法の改正史へ
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