JAGDA創作保全委員会編「グラフィックデザイナーのための本2 タイプフェイスの法的保護」日本グラフィックデザイナー協会 2016年3月
オススメ度
「一般」は著作権について大まかに知りたい方、「初学者・学部生」は著作権を基礎からしっかり勉強したい方、「大学院生」は司法試験で知的財産法を選択する方、「実務者」はメインの業務で著作権に携わる方が目安となります。
初学者・学部生 ★★★★
大学院生 ★★★★☆
実務者 ★★★☆
紹介
日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が2015年7月に開催した「タイプフェイスの法的保護」というセミナーの基調講演とパネルディスカッションの内容、関連資料を収録したもの。本書は著作権の本棚(21)で紹介した「著作権Q&A」と同じ「グラフィックデザイナーのための本」シリーズの1冊です。
「著作権Q&A」の方はミスが多いので酷評してしまいましたが、この「タイプフェイスの法的保護」は打って変わって素晴らしい内容です。
全編を通して面白いのですが、第1部の大家重夫久留米大学名誉教授の講演稿「タイプフェイスの法的保護の現状」が出色です。
大家名誉教授は、元文部官僚(著作権課長補佐や著作権調査官の経歴があります)なのですが、それに似合わず(?)、タイプフェイスに関してこれまでに蓄積された判例にかなり批判的です。
講演の最終盤にこう述べます。
「過去にここまで判例が積み重なった中で〈ゴナ∪事件〉があった。それから〈北朝鮮映画事件〉があった。この2つの最高裁判決によって、タイプフェイスの法的保護が、今非常に危機に瀕しているというか、ゼロになったといってもいいかもしれません。これは大事件です。」
タイプフェイスについては、従来から、意匠法と著作権法の間の空隙で必要な保護が受けられないという点がたびたび問題視されてきました。
学者の多くも立法などで対応すべきと論じています。
それにもかかわらず、状況は一向に改善されないまま今日に至っています。それどころか最高裁判決によって悪化したといっても過言ではありません。
大家名誉教授は、このような事態に強く警鐘を鳴らしているわけです。
プロのクリエイターが美的創作力を発揮して完成させたタイプフェイスが実質的に無保護である反面、素人がちょっと構図を考えて撮影したような写真や小一時間で描き上げた絵画が保護を受けられるというのは、不条理はなはだしいというより他ありません。
と、若干、感情的になりましたが、閑話休題。
本書には、その他に、セミナーテキストである「タイプフェイスの法的保護」と「タイプフェイスの独創性と美的特性」、パネルディスカションの内容等が掲載されており、どれも興味深く読むことができます。
タイプフェイスや著作権についての知識がほとんどなくても十分に楽しめるはずです。
うれしいことにJAGDAのサイト(下記)から無料でPDF版を入手できますので、スマホやタブレットにダウンロードして、通勤途中や休憩中に是非一読してみて下さい。
⇨JAGDAサイト「グラフィックデザイナーのための本2 タイプフェイスの法的保護」
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